小さいとこの理念

第5回小さいとこサミット

<ささやま宣言>

<前文>
全国には、自然系や人文系など、様々な分野ミュージアムがあり、日々活動している。その多くは学芸員などの職員が不在あるいはわずかしかいない小規模ミュージアムであり、地域資源を活用し教育や文化の発展に寄与するものとして重要でありながら、昨今の長引く不況や地方の過疎化の影響で、予算の縮小・来館者の減少などが続き、疲弊している。
我々、小規模ミュージアム= “小さいとこ” に関わる者は、1つの施設だけでは力が及ばない課題を解決するため、情報交換や支援などで協力し合い、年一集まることで、それぞれが地域に根差した活動を続ける “小さいとこ” の魅力を発信し続けてきた。

 

篠山で開催された第5回小さいとこサミットでは、「小さな町の (存在感の) 大きな博物館」をテーマとした。ミュージアムがあるからこそ小さな町が盛り上がっていたり、ミュージアムを中心に人が集まってきて地元に移り住んだりというような地方にミュージアムができたことで町変わった事例を紹介し、小規模ミュージアムの連携と地域社会との関わりについて議論た。
今回のサミットでは、

(1) 地元や来館者に愛される職員がいて退職後も定住したり他機関で活躍したりと、地域のミュージアムが優秀な人材の輩出機関などとなっている事例、

(2) 職員がカリスマ的存在となって地域で活躍する事例、

(3) 非常に小規模でありながらジオパークという国際ブランドを取り込んで地元に貢献する事例、

(4) 職員が外部からの移住者であっても地域と連携し溶け込もうと努力する事例

など、さまざまなミュージアムの地域における大きな存在感の事例が報告された。
中でもサミット開催館となった篠山チルドレンズミュージアムは、2001年の開館以来、地域において家族以外に子どもを育てる大人がいる施設として、地元篠山の教育や文化の発展に寄与してきたが、予算の縮小などで一時休館に追い込まれた。しかし、職員やボランティアなど地域を巻き込んだ新たな運営手法を取り入れて2013年春13か月ぶりに再起を果たした。この裏では、小規模ミュージアムネットワーク館再開前後にサミット開催など様々なでの支援を行ったこうした連携の事例は、疲弊した地方にあって休館や閉館の危機に見舞われている他の小規模ミュージアムにおいても安定的な運営のための参考になると思われる。
そこで、第5回小さいとこサミットでの議論を踏まえ、我々小規模ミュージアムネットワークは以下の宣言を採択し、さらに 小さいとこ の魅力を創造し、発信していくものとする。

 

<宣言>

  1. “小さいとこ” だからこそできることを考えよう
  2. 数値で表わせないことも評価しようと呼びかけよう
  3. 小さかったらつながって、自分の良さをみつけよう
  4. “大きいとこ” にもつながって、みんなと共有しよう
  5. 地域に溶け込み、誇りを持って続けていこう

1.“小さいとこ” だからこそできることを考えよう
——— 小規模ミュージアムの強みを意識した運営を行う
小規模ミュージアムの最大の強みは、膨大な資料や大規模な施設ではなく利用者との距離が近いこと、つまりきめ細かで利用者に顔の見える活動ができることにある。これにより、利用者や職員が地域の人材として育つ場となる事や、人が集まり盛り上がる場となる事ができる。加えて職員数が少ないゆえに内部の意思決定が比較的素早くできる。我々はこの点を確認し、人的な魅力と機動力を駆使し、地域資源を活かしながら、地域の一員としてのミュージアム運営に尽力する。

 

2.数値で表わせないことも評価しようと呼びかけよう
——— 新たな評価基準を訴求する
このような魅力こそが社会における小規模ミュージアムの存在意義のひとつであり、活動の評価には各館のミッションや職員・ボランティアの満足度、地域との親密度などに応じた評価基準が必要となる。そのため我々は、数字による評価だけでなく、これからのミュージアムの質的な評価基準づくりのモデルとなるよう、その訴求に努める。

 

3.小さかったらつながって、自分の良さをみつけよう
——— 存在意義を高めるために小規模館同士のネットワークを強化する

また、小規模ミュージアム同士は、情報交換や互いの支援などのためのネットワークを強化することで、互いを刺激しあい、地域における各館の存在意義を高め合うとともに、各館の活動が唯一無二の重要な存在として世界に誇れるレベルであることを自ら認識し、発信する。

 

4.“大きいとこ” にもつながって、みんなと共有しよう
——— 利用者のための小規模館と大規模館のネットワークを強化する
小規模ミュージアムは、利用者の知的好奇心や疑問などの相談に応じ、その内に応じて適切なミュージアムや関係機関を紹介する。また、小規模ミュージアムと大規模ミュージアムのネットワーク構築によって、大規模ミュージアムが利用者の居住地域の小規模ミュージアムを紹介したり、ミュージアムとの長期的な関わりを望む利用者に地域密着型の運営をするミュージアムを紹介することが可能となる。このことは、利用者だけでなく、小規模ミュージアム、大規模ミュージアム、双方にとっても利用者の適切なマッチングができるといったメリットがある。

 

5.地域に溶け込み、誇りを持って続けていこう
——— 継続性のあるミュージアムの実現
我々は、地域の文化的なハブとしての存在を意識し、文化・伝統・記憶・自然などの地域資源を蓄積し、残し、共有する役割を持ち続ける。さらに、市場原理に基づく「消費するミュージアム」でなく、市民が主体的に支えたくなる「創造するミュージアム」であり続ける。すなわち小規模ミュージアムは、知的・物的・人的資源の将来にわたる安定的な提供機関として、また小規模だからこそ地域に密着し愛されるミュージアムとして、存在し続けることが重要であり、我々はそのことに誇りを持つ。

 

20141111
小規模ミュージアムネットワーク

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小さいとこネットが考える
博物館の意義とそのスタッフの重要性

はじめに
「小規模ミュージアムネットワーク (小さいとこネット) 」は、2010年の発足以来、小規模ミュージアム同士の交流を通してお互いの活動を学び合い、より良い施設運営をすることを目指してきたネットワークです。「小さいとこ」は「小さいこと」を共通項として、博物館、資料館、学習館、ビジターセンター、動物園、水族館、美術館など多様な施設のスタッフの他、大学教員、展示業者、施設を運営する NPOや財団職員、友の会会員、そしてボランティアなど、小さいとこに関わるいろいろな立場、さまざまな考えの人たちが集う場となっています。ここでは、そんな小さいとこネットのメンバーからあがってきた声を取りまとめて、いま私たちが考える博物館の意義とそれを支えるスタッフの重要性について示したいと思います。

 

「小さいとこ」の現状
日本には2015年現在、博物館が1256館、博物館類似施設が4434館あり、そのおよそ2/3は市区町村立クラスの小規模な施設です。また、学芸員は博物館法第四条において「博物館資料の収集、保管、展示及び調査研究その他これと関連する事業についての専門的事項をつかさどる」専門的職員とされます。
大規模な博物館では担当分野を決めて分業していることもありますが、現行の博物館法では学芸員に業務区分はなく、小さいとこではあらゆる事務作業、来館者対応から展示制作、執筆、資料の保存管理、そして教育や資料活用、観光対応までを一人で行っている例も少なくありません。現在までに博物館等の施設への予算が大幅に削減されてきた結果、特に小さいとこでは嘱託などの有期雇用、低賃金、長時間労働が常態化しています。2016年の「日本の博物館総合調査研究」によると、職員の平均4割が有期雇用、その7割が2030代の若い世代に集中するという厳しい現状が見えてきます。
そんな中にあっても、それぞれの館のスタッフは、「小さいとこ」の強みを生かし、顔の見える運営、小回りのきく活動を行なっており、博物館として地域からの期待に応えるために懸命の努力を続けていますが、また限界があることも事実です。慢性的な人手不足の中、人材育成が急務であるのが現状であり、人件費の増額は欠かせないと考えますが、実際には、先進主要国の中で日本の文化行政への予算配分は非常に少なく、2019年に京都で行われる国際博物館会議 (ICOM) の第25回世界大会や2020年の東京オリンピックに向けた文化芸術立国を実現することは非常に難しい状況であると言わざるを得ません。

 

魅力的な地域づくりに向けて
時代にあわせた魅力的な地域づくりのために、地方の自主性や将来性を育てる仕組みを整えていくことが求められています。ちゃんと給与が得られ、安心して子育てが出来る、きちんと暮らしていける、そういう地域づくりに小さいとこも関わっています。もちろんその中には貴重な文化財や伝統文化の魅力を発信して観光を通じた地域づくりを目指す博物館もたくさんあります。その際、学芸員は、それらの地域資源が一時的な使用・活用によって消費・消耗されることがないよう細心の注意を払っています。学芸員は専門職として保存技術の観点から影響のない範囲での利活用を考えるのが使命だからです。文化財保護法と博物館法の理念に則り、正確な見識の上に立って地域資源の活用方法を観光行政とともに検討できる土壌を構築する必要があるでしょう。

 

小さいとこネットの意義
「小さいとこネット」は1つの施設だけでは力が及ばない課題を解決するため、メーリングリストを通じた情報交換や相互支援などを通じて協力し合い、年一回「小さいとこサミット」を開催し、会員それぞれが地域に根差した活動を紹介し合うなど、交流を続けてきました。「小さいとこ」があるからこそ小さな町が盛り上がっていたり、魅力的な「小さいとこ」が他地域から人を呼び寄せ、実際その地域に移り住んだり、そうした人たちが地域貢献の一翼を担ったりというような例も少なからずあります。
私たち「小さいとこネット」は、20141111日にささやま宣言を発表しました。

 

【ささやま宣言】

  1. "小さいとこ” だからこそできることを考えよう
  2. 数値で表わせないことも評価しようと呼びかけよう
  3. 小さかったらつながって、自分の良さをみつけよう
  4. “大きいとこ” にもつながって、みんなと共有しよう
  5. 地域に溶け込み、誇りを持って続けていこう

これからも小さいからこそできること、小さいからこその魅力を発信し続け、地域のみなさんと共に成長し続けたいと考えています。みなさんのお近くの「小さいとこ」とそれを取り巻く人たちの活動に、ご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

 

2017421
小規模ミュージアムネットワーク (小さいとこネット)

 

(参考)
「日本の博物館総合調査」(平成25年度)  1 博物館の職員 博物館の職員配置と学芸系職員の雇用状況 -職員数・人件費・学芸系職員の年齢構成と雇用形態の現状-

http://www.museum-census.jp/report2014/report1.pdf
文部科学省 平成27年度 社会教育統計 (社会教育調査報告書)
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/03/27/1378656_01.pdf

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